経済学の一分野であるゲーム理論では、人々の利害関係を分析する方法を開発し様々な社会・経済の問題に適用してきました。その積み重ねにより、研究者たちは「与えられた制度=ゲームのルールのもとで人々がどう行動するか」について多くの知見を蓄積してきました。

 このように、ゲーム理論が現実を説明する「理学」として成熟するに従って、今度はこのアプローチを逆転させ「人々にとって望ましい結果を得るにはどのような制度=ゲームのルールをデザインすればよいか」という形で、理論による制度設計を現実問題に実装する「工学」的な応用を目指す領域が発展しています。この領域が「マーケットデザイン」という学問です。

 マーケットデザインは、その成り立ちから、制度への参加者が自ずと社会全体にとって望ましい行動をとってくれるようなインセンティブ設計の問題を解決することを得意としています。

 例えば、社内人事制度において、「本人の希望を尊重するために、行きたいと申告された部署の中から配属先を決めます」というルールを設定したとします。これは一見もっともらしい制度に見えますが、社員はより希望度の高い部署に配属されるように、「本当はほかの部署に配属されても良いが、敢えて特定の部署だけ希望していることにしよう」という嘘をつくインセンティブが生じ、社員の真の希望に基づいた配属決定が出来なくなってしまいます。

 他にも、COVID-19ワクチンの接種予約に際して生じた混乱もインセンティブ設計の問題として捉えることができます。早いもの勝ちでの受付を行った結果、いち早く接種したい住民が殺到し、電話回線やサーバーがダウンしてしまう事例が全国でみられました。各個人が与えられたルールの中で最適な行動をとった結果、本来不必要なコストを投じる必要が生じてしまったのです。

 このような課題も、マーケットデザイン研究の発展により、社会科学の知見に基づいた工学的なアプローチによって解決することが可能になりました。実務上の制約なども踏まえながら、最適な制度を設計し実装していきます。

マーケットデザイン解説動画

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