研究部門

研究領域

本センターでは、実装から理論的発展へのフィードバックを行います。具体的には、実装の作業を通じて、これまでの研究では光が当たっていなかった問題(現場からの要請)を把握し、それを解決する理論を新たに作り出すことを目指します。このように、既存の研究を実社会に適用するだけでなく理論そのものを発展させることで、本センターの研究機関としての使命を果たしていきます。

本センターでは6つの領域を重点的に扱っています。

労働市場部門

活動概要

少子高齢化による労働人口の減少や就活ルールの変更などの社会変化を受け、制度設計による労働市場の改善は喫緊の課題です。例えば研修医の配属制度については研究所メンバーによる具体的な改善案が既に存在し、関係機関との協働によりさらなる研究や実装を目指します。就職活動の過度な早期化の是正、中途採用や定年後再雇用制度の改善、ハイキャリアを目指す中途退職者市場整備(キャリアマーケットデザイン)、また企業など組織内人事の効率化なども視野に入れており、官民の様々な組織と共同研究を行う予定です。

これまでの取り組み

マッチングアルゴリズムで自律的なキャリア開発を実現(シスメックス株式会社との共同研究) 保育市場における社会課題の解決を目指す(株式会社ネクストビートとの共同研究)

教育・保育部門

活動概要

現代社会における教育の重要性は改めて指摘するまでもありませんが、稀少な教育資源をなるべく効率的かつ公平に分配するかは本センターの重要な研究課題です。例えば保育園のいわゆる「待機児童問題」を解決するために入所希望者と保育園のマッチングを改善する手法を開発し、企業とも連携しながらアプリケーション等の開発に取り組んでいます。他にも公立小中学校のいわゆる学校選択、高校・大学入試、研究室配属のような教育機関内のマッチング問題などを応用先として想定しており、これらに関して制度的知識を蓄えつつ実装を視野に入れた共同研究を目指します。

これまでの取り組み

保育園の利用調整に関する研究成果 公立高校入試制度の再設計に向けた提言: 単願制が引き起こす不公平とその解決策

オークション部門

活動概要

このプロジェクトでは、制度設計に金銭の移転を組み込むことによる望ましいプラットホーム設計を考案します。人類は古来せり上げなどのオークションを活用してきましたが、本プロジェクトは、既存のルールの利点と欠点を解明し、より良い設計を状況に即して提案します。具体的には、SDGsに大きく寄与する再生資源の取引ルール設計、広範囲の事業利用が期待される電波周波数帯の配分および再配分のルール設計、仮想通貨を利用することでスタートアップを促進させるブロックチェーンプラットホーム開発、などが対象です。農産物市場オンライン化、空港発着枠配分、電力市場、金融システムなども考察対象にします。

これまでの取り組み

PETボトルリサイクル入札の再設計に関する政策提言

災害・医療部門

活動概要

地震や洪水などの災害大国であり少子高齢化の最も進んだ国である日本にとって、災害・医療・介護などに関する諸制度の重要性は増すばかりです。またコロナウイルスに代表される感染症の脅威に対して有効な制度を作ることが強く求められています。このプロジェクトでは日本以外において進んだ臓器移植ネットワークの制度設計の実装、パンデミック対策としてのワクチンや検査キット・治療薬の配分、さらには検査と入院治療の優先付けや、いわゆる「トリアージ」の在り方など医療資源の望ましい配分方法の開発などを目指します。また災害に関しては災害避難計画へのマッチング理論の導入や、救援物資の配分、(仮設)住宅と被災者のマッチング、被災直後に急増するボランティアを異なる被災地域に最適に配分するための制度作りなどを研究対象とします。さらには高齢者の特養への入居決定やいわゆる「フードバンク」の食品振り分けなど、広く社会のセーフティネットを改善するための制度設計研究を行う予定です。

これまでの取り組み

(一般向けレポート)COVID-19ワクチンの配布計画とマッチング・マーケットデザイン 東京大学エコノミックコンサルティング株式会社と千代田区におけるワクチン接種に関するコンサルティングを開始

理論研究部門

活動概要

本部門の大きな特長は、高いパフォーマンスを達成する制度・参加者にとって使いやすい制度を設計するにあたって、ゲーム理論や計算機科学の最新の理論的成果を縦横に駆使するということです。このような、より良い制度の設計につながる理論研究と、社会実装からのフィードバックによる理論研究を、本部門では推進してゆきます。それと同時に、多彩な基礎的な理論研究も幅広くサポートします。現在制度設計に活用されているマッチング理論やオークション研究は、実用化を目標にして開発されたものではなく、研究者が自由な発想で得たものでした。本部門では、長期的な視野に立ち、優れた研究者が自由な発想のもとに理論研究を進めることもサポートしてゆきます。

環境制度設計部門

活動概要

19世紀の経済学者ジョン・スチュアート・ミルは、経済成長が一定の限界に達した後、経済成長が停滞する一方で、社会が物質的な豊かさではなく、精神的な充実や文化的な発展を求める定常状態に移行するという未来を予測していました。しかし、この予測に反して、経済成長は環境破壊を進行させ、社会的不平等や国際的対立を深刻化させています。未来世代に、物質的にも文化的にも十分な生活環境を保証することが困難になっています。よって、現代においては、経済、環境、社会を三位一体として総合的に考え、経済成長をある程度支持しつつも、環境に与える影響を最小限に抑え、全ての人に公平な恩恵が及ぶように、未来世代に上手にバトンタッチしていくことが求められています。
 このプロジェクトは、このような持続可能性(サステナビリティ)の要請にこたえるため、循環経済(サーキュラー・エコノミー)システム構想を、主にマーケットデザインの視点から政策提言します。
 循環経済システムは、資源の使用と廃棄を最小限に抑えることを目指し、廃棄物を資源として再利用することで、環境への負荷を減らすことが主な目標です。この構想には、エネルギー転換、環境イノベーション、CO2排出削減、生物種・生態系保護などといった多くの重要課題の解決が含まれます。また、社会的公正や不平等、国際秩序やガバナンス、気候変動による災害への適応も、あわせて考慮していく必要があります。
 このプロジェクトは、このように広い視野に立って、オークション部門や災害・医療部門といったUTMD内の他のプロジェクト、さらには経済学以外の専門分野による学際研究プロジェクトなどとも連携して、循環経済システム構想の重要なピースとなるようなマーケットデザインのモデルを政策提言します。

これまでの取り組み

「PETボトルリサイクル入札の再設計に関する政策提言」 – 東京大学マーケットデザインセンター(2022年3月24日) 「PETボトルリサイクル入札の再設計に関する政策提言」 – プレスリリース(PRTIMES)(2022年4月21日) 「「地上油田」入札、東大が改革提言」 – 日経ヴェリタス(2022年7月31日号、ESG欄) 「回収ペットボトルは「地上油田」東京大が入札改革提言」 – 日本経済新聞『みんなのESG』(2022年8月3日) 「温暖化対策に新たな視点 世界共通の炭素価格目標を」日本経済新聞『経済教室』(2022年9月26日)