一般向けレポート・提言
特別養子縁組制度の改善に向けた提言

概要
本提言は、日本の特別養子縁組の制度面の課題に対し、マーケットデザイン、とりわけマッチング理論の観点から改善策を提示する。
日本の特別養子縁組の成立件数は、低調にとどまっている。現状の制度面の特徴と課題として、児童相談所(児相)と民間あっせん機関による分権的な運営が行われていることや、マッチングの決定が属人的なスキルなどに依拠していることが挙げられる。特に分権的な運営は、養子と養親の登録数に機関間・年齢間で不均衡を生み出し、望ましい縁組の成立可能性を低下させてしまうと考えられる。
特別養子縁組制度は、養子と養親が互いの相手を探す枠組みという点で広義の「市場」とみなすことができ、かつマッチング理論を有効活用できる三条件 ― ①価格による需給調整が不可能であること、②養子と養親という二種類の参加者が存在すること、③参加者が選好(希望)を持つこと ― を満たしている。米国では、マッチング理論の応用研究に基づいた仕組みが、養子縁組制度に組み込まれ実装されている。
本提言は、マーケットデザインの観点から、相互に関連する以下の三つの改善点を提示する。
- 第一に、中央集約的な仕組みを活用すること、特に、情報を集約化することである。養子候補・養親候補の情報の一元的管理は、市場参加に掛かるコストを下げるだけでなく、児相や民間あっせん機関の運営コストの低下にも繋がる。また、機関をまたいだより望ましいマッチングが実現する可能性を高める。
- 第二に、市場の厚みを増すこと、具体的には、市場を統合することや、参加者を増やすことである。情報を集約化し、分権的な市場を統合することが重要である。また、参加コストを下げることや、希望を尊重してマッチングに反映することで、参加者にとってより魅力的な縁組が可能となる制度を目指すことが重要である。
- 第三に、推薦システムの導入である。双方の希望を反映できるアルゴリズムを用いて望ましい組み合わせを絞り込むことで、相手に対する高望みを防ぐことや、ケースワーカーの知見を推薦システムにより広く活用することで、マッチングの改善やケースワーカー等の関係者の負担軽減が期待される。
以上の三つのアプローチを応用して制度を改善していくための具体的なプロセスとして、日本の現行制度を考慮して制度変更を最小限にする観点から、段階的な方策を提示する。まず、比較的協働が容易であると考えられる地域の児相を基盤として、中央集約的な情報共有システムを構築する。次に、このシステムに民間機関が自主的に参加できる仕組みを導入し、集約と分権のハイブリッド型の制度運営を目指す。この過程で、潜在的な候補者の参加を促しつつ、推薦システムの導入を図る。
以上の制度面の改革によって、より望ましいマッチングの可能性が広がり、より多くの子どもたちが温かい家庭的環境に巡り合えるようになることが目指される。

公開日:2025年12月12日
東京大学マーケットデザインセンター(UTMD) 特別養子縁組制度検討チーム
執筆担当(五十音順):
| 青井七海 | 東京大学大学院経済学研究科博士課程/UTMDリサーチアシスタント |
| 今村謙三 | 東京大学大学院経済学研究科特任講師/UTMD研究員 |
| 小田原悠朗 | UTMD 特任研究員 |
| 河野彩奈 | 東京大学大学院経済学研究科博士課程/UTMDリサーチアシスタント |
| 堀越啓介 | 東京大学大学院経済学研究科特任講師/UTMD研究員 |
| 前田佐恵子 | UTMD 特任研究員 |
お問い合わせ先
Webサイト
https://www.mdc.e.u-tokyo.ac.jp/
メールアドレス
e-mail: market-design[at]e.u-tokyo.ac.jp ( “[at]”の部分を“@”に変えて送信して下さい)
電話番号
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